最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)301号 判決 1969年12月02日
上告人
喜多綱市
代理人
霜山精一
中島登喜治
吉岡秀四郎
被上告人
志賀竹夫
外一三名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人霜山精一、同中島登喜治、同吉岡秀四郎の上告理由第一点について。
原審が、上告人の本件確認請求部分は、結局、過去の権利関係の確認を求めることに帰し、確認の利益を肯定することができないから、不適法として却下を免れないとした判断は、正当である。論旨は、採用することができない。
同第二点について。
所論は、民法二〇三条について、いわゆる擬制的占有権(物権)を認めて占有者の保護を図つたものと解するのが相当であり、それ故、原審の被上告人高柳道生、同高柳有限会社、同町井久之、同落合義男、同田栗敏男、同社団法人アメリカン・ソサエテー・オブ・ジャパン(以下、被上告人高柳道生ら六名という。)に対する本件各損害賠償請求を排斥したのは違法である旨主張する。
しかし、民法二〇三条本文によれば、占有権は占有者が占有物の所持を失うことによつて消滅するのであり、ただ、占有者は、同条但書により、占有回収の訴を提起して勝訴し、現実にその物の占有を回復したときは、右現実に占有しなかつた間も占有を失わず占有が継続していたものと擬制されると解するのが相当である。原審が、所論擬制的占有権について右と同趣旨の判断を示し、所論被上告人らに対する損害賠償請求を排斥したのは正当である。論旨は、独自の見地に立つて原判決を非難するものに過ぎない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採ることができない。
同第三点について。
民法二〇三条の解釈は、右第二点において説示したとおりであり、原判決に所論の違法はなく、論旨は、採ることができない。
同第四点について。
所論の第一は、擬制的占有権または訴提起の正権原を前提として原判決を非難するが、すでに右前提において失当であることは、右第二点および第三点において説示したところにより明らかであるから、所論は理由がない。
所論の第二は、原審が、被上告人らに対する損害賠償請求の訴について、その出訴期間をすべて被上告人志賀竹夫の侵奪の時から起算し、法定の期間を経過したものとして、右各請求を排斥したのは違法である旨主張する。
しかし原審は、被上告人高柳道生ら六名に対する本件各請求をすべて排斥しているのであるが、原判示によれば、原審の右判断は正当である。
そして、民法二〇〇条一項は、占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴により、その物の返還および損害の賠償を請求することができる旨規定しており、同法二〇一条三項によれば、右の訴は侵奪の時から一年内に提起すべきものと明定されているのであるから、原審の、被上告人志賀竹夫、同下田千代および岩橋勝一郎に対する本件各損害賠償請求の訴は、出訴期間経過後に提起されたもので失当である旨の判断も、正当である。
原判決に所論の違法はなく、論旨は、いずれも採用することができない。
同第五点について。
所論は、占有回収の訴において請求することが許される損害賠償は、擬制的占有権の侵害による損害の賠償とみるほかなく、原審がこれを普通の債権と解して民法二〇一条三項の出訴期間の定めを適用したのは違法である旨主張するが、所論の理由がないことは、右第二点および第四点において説示したところにより明らかである。論旨は、採ることができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)